編集者であり、作家であり、アメリカ文化研究者でもある常盤新平さん。2013年、81歳で亡くなってしまいましたが、常盤さんの文学に対する真摯な姿勢にいつまでも影響を受け続けていたいと考えています。
直木賞受賞作である『遠いアメリカ』をはじめとした、さまざまな著作ももちろん印象的なのですが、今回は常盤さんが「受けた影響」について考えてみたいと思います。エッセイの中で高く評価していた作品をピックアップしながら、常盤さんの感想とともにご紹介します。
ガブリエル・コーエン『贖いの地』
常盤さんが「じっくりと読ませるミステリー」だと太鼓判を押していた作品。波止場地区レッド・フックを舞台に、殺人課刑事の無自覚な「トラウマ」にフォーカスしていく作品です。
翻訳は、北澤和彦さん。ガブリエル・コーエンのデビュー作で、2002年のMWA賞最優秀処女長編賞にもノミネートされた力作。
「じっくりと読ませる」という言葉の通り、確かにさくっと読んで終わり、という作品ではないので根気もいりますが、読みきったときにはぐっとくるはず。
吉野秀雄『良寛』
「良寛の本質は「詩人」である」というテーマを中心に、歌から良寛に寄り添った評論文。精緻な文で紐解いているため決して分かりやすい、読みやすいと言えるような文章ではないのですが、常盤さんも「以前は難しく感じられた」とのこと。しかし、さまざまな経験を積む中で味わい深く感じられるようになったとのことなので、何度も繰り返し読みながら噛み砕いていきたいですね。
私も最後まで読んだ本の内容について、よく理解できなかったとき、つい「面白くなかった」「分からなかった」という判断をしてしまいそうになるのですが、常盤さんのように読書量がとにかく多くて、あらゆる経験をしている人でさえ「昔は読めなかった本が、そのうち読めるようになる」という経験をするんですね。
芥川賞作家になったピースの又吉さんも、アメトーーク!の読書芸人の中で仰っていましたが「つまらない本はない」んだと思います。自分が読める本には限界があるけど「限界」の幅をどんどん広げていきたいです。
A・スコット・バーグ『リンドバーグ』
ピュリッツアー賞を受賞し、スピルバーグ映画化もされたコン作は、常盤さんが「最初から面白い」と太鼓判を打っていた一作です。上下巻からなり、それぞれ500ページ以上という大ボリュームで、リンドバーグと航空史を紐解いていきます。
リンドバーグの人柄から思想から家族への向き合い方から、人生を網羅したとも言える濃い内容に常盤さんも「力作」とベタ褒めしています。
映画『セント・オブ・ウーマン』
最後は、小説や評論などの文学作品でなく、映画から。人生に悲観した盲目の元軍人と、苦学生との交流を描いた作品です。
エッセイ内で、常盤さんは「もう何度観ただろう」と記していることから、好んで繰り返し観ている作品であることが分かります。素直に訳せば「女の香り」となるのですがそれを「夢の香り」と訳しているのもまたにくいな~という感じでいいですね。
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