トウテムポールさん「或るアホウの一生」の騒動と出版業界の現状打破のためにできること

トウテムポールさんの作品に「或るアホウの一生」という将棋漫画があります。2018年10月、今作についてTwitter上でちょっと話題になっていたのでその件について。

トウテムポールさん「或るアホウの一生」の騒動について

「騒動」というと大げさすぎるようでもありますが、Twitterで話題になっていたので、あえてこう書きます。

内容を端的に言うと、作品の打ち切りが決定してしまったということ。

そして私が何より驚いたのは、最終巻が刊行されないかもしれないという旨を作者さんがおっしゃっていたことです。トウテムポールさんによれば、電子書籍版はリリースされるはずだけど、紙の書籍はどうだろう……という内容でした。

「或るアホウの一生」は3巻まで紙の書籍が発売されているのですが、いわゆる「コミックスで追いかけている勢」はこのままでは、3巻以降~最終回までの内容を知ることができないということになります。もともとアプリ・WEB上で掲載されていた作品であることが関係しているのか、単純に電子書籍ユーザーが増えているのかわかりませんが、紙の書籍は必ず刊行されるものだと思っていたので大変衝撃でした。

電子書籍と違って印刷、出版という手間がかかることを考慮すると、仕方ないことなのかもしれませんが、それにしてもまさか待ち望んでいる新刊が出ない可能性があるとは。「出版業界は下火」と聞いていても、自分がまったくピンと来ていなかったことを実感しました。

 

出版業界の現状を打破するために読者ができること

じゃあどうすれば「なんとしても新刊が欲しいんだ!読者はいるんだ!なんなら一人で10冊買うから!売ってくれ!頼む!」という読者の思いを、出版業界にお伝えできるかということ。

この件についてもトウテムポールさんはツイートされていたのですが、反響が大きすぎたためかすでに削除されてしまったようです。削除された内容を掘り起こすのは失礼ですが、私はそのツイートの内容に「なるほどそうなのね!」と思ったことを残しておきたいです。

ぼんやりと覚えているツイートの内容は、作家や編集部に熱いメッセージやお便りを送るだけでは、(作家さんとしてもらってうれしいという気持ちがあったとしても)なかなか偉い人に言葉が届かないので、他の部署にもお便りを出すほうがいいのかもしれない、ということ。

一つの作品が出版されるまでには、宣伝部、販売部、営業部、出版企画部などあらゆる部署がかかわることになります。

こうした部署は紙の本が読者に届くために必要なステップである「書店」とのかかわりも深く、編集部だけでなく他部署も含めて「この本は売れるらしい」とキャッチする→印刷部数を決定→書店に並ぶ→読者の手に届く!ということにもつながるそう。

「或るアホウの一生」は、やる気が起きないときやしんどいときに何度も読み返しやる気をもらっていた作品なので、トウテムポールさんが書きたいことを書き切るまで応援したかった、という自戒とともに、次に応援したい作品が見つかったときには積極的に出版社にお客さまの声お届けマンになろうと強く思いました。

 

トウテムポールさん「或るアホウの一生」のあらすじ

そんな、大変感銘を受けた作品である「或るアホウの一生」は、将棋のプロを目指す4人のキャラクターを軸に進められていくお話です。

「プロになりたい」という熱い気持ちは同じでありながら、いまいち結果・成果につなげられない4人が、それぞれのやり方で泥臭く戦っていく姿が印象的で、なんとなくやる気が出ないときやついダラダラしがちなときに読み返すと情けない頬に平手打ちをかましてくれるので、本当に何度も何度も読み返しています。

 

主人公の男子高校生が、プロになるべく毎日学校に通う時間以外のほとんどを将棋に費やしていたり、それでも結果が出せず師匠のもとへ相談に行くも具体的なアドバイスがもらえなかったり、仲間のずるさに幻滅したり、対局中に勝ちたい、プロになりたいという思いが作り上げた幻想の自分が対局中に「人生ムダじゃなかったって証明したい」と天を仰いだり。

ヒーローが登場してスタイリッシュに望みを叶えていくタイプのお話ではなく、正解が分からない、むしろ正解なんてものが本当にあるかどうかさえも怪しい環境で、キャラクターがひたすらもがいて、喘いで、格好悪いところを曝け出しているのがぐっときます。

ちなみに全編、将棋の知識はなくても読みやすい展開になっているので「将棋か~」と敬遠する必要はありません。実際私も、将棋のことを何も知らないまま読み進めてずぶずぶハマりました。

青臭く泥臭く突き進んでいくキャラクターたちと、ふいに飛び出す

「なんでプロになりたいの?誰も望んでないのに」

「自分が大事と思う日が大事なのであって、そうじゃない日は普通の日なのだ。もしかしたら今日の一局で人生が決まるかもしれないのに」

「俺は驕っていたのか?」

といった言葉の鋭さのコントラストがグサグサ刺さります。

 

最終回を迎えた今普及活動をしても意味がないかもしれませんが、それでも名作はいつ読んでも腐らないと思うので、機会がありましたらぜひに。

 

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