なんだかんだ言いながら毎年見てしまうM-1グランプリ。年々「お祭り感」が増しているようにも感じられる今大会ですが、12月2日(日)に開催された、M-1グランプリ2018に対する一視聴者の感想です。
決勝進出コンビの既視感
M-1グランプリ2017のとき、Twitterで流れてきたとあるツイートがすごく印象的です。
「とろサーモンがいてジャルジャルがいてかまいたちがいて、オールザッツ漫才か。なんでここにストリークがおらへんねん」
もう言い得すぎていて。10年前のオールザッツ漫才かよ。ケンドーコバヤシ氏がくまの○ーさんのド下ネタ繰り出して騒然となりかねない人選かよ。
そして迎えたM-1グランプリ2018。圧倒的っ……既視感っ……。
もはや定番ともいえそうな常連メンツが揃い踏み、あとは誰が「悲願の初勝利!」を掴むのかという、そのための大会のようにも思えます。そんな誰が優勝してもおかしくないという見知った面々の中、ダークホース的に紛れこんでいたのが「霜降り明星」と「トム・ブラウン」。結果として、間違いなくダークホースでした。
霜降り明星のシンデレラストーリー
5組目くらいまで「ほうほう……」という緊張感が続き、審査員の誰かが「そろそろ爆発するコンビが出てきてくれないかな?」とつぶやいたあと、登場したコンビが空気を変える→優勝!という流れは、M-1グランプリの定石とも言えます。チュートリアルが優勝した年なんかは、完全にこのパターンでした。
そして今年も、そのパターンで登場した霜降り明星がそのまま駆け抜けて優勝。動きもありつつのしゃべくりという王道スタンダード漫才の中に若干の番狂わせ感をつめこんでいて、審査員が個人的な好みを度外視して点数をつけざるを得ない、なんというか「よくできてんな!」というネタでした。「とにかく上手い」「想像の少し上をいく」という審査員コメントがすべてを語っていたと思います。
特にツッコミの粗品さんが作る抑揚がすごいなあとぼんやり見ていたのですが、ネタよりなにより、優勝発表前のコメントがあまりにもそつが無さすぎて衝撃を受けました。大人のコメントだった。何が粗品だ。貴様さてはめちゃくちゃできる奴だろ。さては粗品という芸名も「僕みたいなもんは粗品のようなものです」みたいな謙遜だろ。
あまりにも老成感がすごかったので調べてみたら、若いときにお父様を亡くしているらしくなんだか納得したり、同時にWikiを見て年下と知り若干のショックを受けたりしていたのですが、そんなことよりWikiに載っていた相方・せいやさんのエピソードがまた衝撃でした。
なんでも、せいやさんは元いじめられっこ。高校時代のいじめは特にひどく、お母様から「もう転校して」と懇願されつつも「笑いでいじめを跳ね返そう!」と通い続け、あるとき文化祭でせいやさんが作ったコントが大ウケ。出来の良さから表彰され、表彰式で「いじめを跳ね返したぞ!」と叫んで大歓声。結果いじめもなくなり、芸は身を助けると実感したそう。そんな経験を持つ人が、M-1グランプリを史上最年少優勝って、シンデレラストーリーにもほどがあるがな……。
トム・ブラウンに大会を破壊してほしかった
そしてもう一組、常連メンツの中でひときわ異彩を放っていたケイダッシュ所属のトム・ブラウン。「中島を合体させてロボットを作る」というネタは、最初「ああ……M-1にはハマってないタイプのネタなのかな……?」と思ってしまったのですが、そんな空気をものともせず最後まで自分たちの牙城を崩さずぶっ飛ばした結果、結果審査員の皆さんが頭を抱えながらもなぜか高得点をつけてしまうという異例の事態に。
この感じ、あれです。「試験に合格するために赤本を使って過去問解きまくったやつより、他者のやり方に目もくれず自分のオリジナル勉強術を続けた奴の方が強い」現象。
例えるなら、キングオブコントのオチで突然なんの脈絡もない段ボールアートを引っ張ってきて、審査員の松本さんの頭を抱えさせたにゃんこスターのあの感じに近しいです。「途中から聞くのを辞めた」と言っていた審査員の富澤さんにいたっては、2本目のネタ情報(「加藤一二三が登場するネタを用意していました!」「しかも、土の中からですよ!」)を知って「2本目を見たくなった」と、点数を付け直したいというようなことを言っていたのも印象的でした。
個人的には、もうめちゃくちゃ頑張ってほしかったです。来年もぜひ決勝に残ってほしいし、来年はこういうタイプの漫才師がもっと増えて、訳が分からないネタでまみれて「今年のM-1はイマイチだな!」ってSNSが荒れるような大会になってほしい。
すげー。感動しました。号泣しました。面白かった。#M1グランプリ2020
— トム・ブラウンみちお🐸 (@tom_mitio) December 20, 2020
色んな芸人さんが速さとネタの多さで勝負する王道しゃべくり漫才を極めて、各劇場で行われる下半期のネタライブがすべて仮想M-1舞台のような微調整を重ねるための場所になっていく現状も嫌いじゃないです。
それでも、M-1にも審査員として参加している博多華丸・大吉の大吉さんがTHE MANZAI 2014にて優勝した際に「そういうネタだけが漫才じゃない」「劇場にはもっと面白い芸人がいるから劇場にも足を運んでほしい」という旨の発言をされていたことがとても印象深いので、トム・ブラウンのように、突き抜けすぎて誰も平均値を図れなくなって結果として評価される、平衡感覚が乱されるようなネタでのし上がってくる人がもっと増えてくれたらいいなあと願っています。
ゆにばーすはこのまま突き抜けてくれ
あと、個人的にこれだけは書いておきたいのが、ゆにばーす。去年はクジ運に恵まれなかったので、今年はどうなるかなあと思っていました。事前に、公式サイトの意気込みコメントの中で川瀬名人が「西の漫才師全員ぶっころします」みたいなことを書いていたことも手伝ってすごく期待値が高かったのですが、いい意味で期待を裏切ってくれました。
ネタ終了&得点発表後、MCの今田さんに「M-1とったら川瀬名人は芸能界引退すると……」と言われたときの「いや(この得点じゃ)とれへんねん!!」というヤケクソツッコミ。得点が出る前に、ネタ中に噛んだことをかなり引きずっている様子が垣間見えるコメントをしていた川瀬名人の、感情ぶん投げヤケクソツッコミ。
バッキバキの目と冷えていく会場の空気とのコントラスト、大会中もっとも興奮した瞬間かもしれません。ゆにばーすはもうずっとこういう感じでいてほしいです。M-1常連になってもならなくても、優勝してもしなくても、ネタの方向性が変わっても変わらなくても、ずっとこういうスタンスでいてほしい。
評価されないのであれば、これが分からない大衆なんてと毒づきながら地下の劇場で教祖様のように自分の本当を突き詰めてほしいです。メディア露出が今以上増えても、頼むから丸くならないでほしいです。本当に。お願いします。
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