ONE先生原作『モブサイコ100』の舞台ブルーレイを見ました。
主演と座長を務めるのは、アニメ版でモブの声優を務めた伊藤節生さん。
最近よくある「舞台化」かあ、というくらいの気持ちで観たこの舞台、想像以上の仕上がりだったので感想をつづります。がっつりネタバレするので、まだ観ていない方はご注意ください。
吉本新喜劇かなというコメディ感
まず第一に、原作モノの舞台は、監督さんも役者さんも演出さんも原作の世界観を壊してはいけないというプレッシャーと戦っているものだと思います。
今回のモブサイ舞台は、いい意味で固すぎない、ラフな雰囲気の中で原作の雰囲気も忠実に再現されていて、とてもバランス感覚がいい印象を受けました。
役者さんはみんな顔芸力が高く、開始数分で「吉本新喜劇かな?」と思うくらい、小ネタと笑いどころの畳みかけがすごい。
- 冒頭から、モブ(主人公)以上の存在感を放つモブ(リアルモブ)
- 霊幻とマッサージされる客のやりとり
- 「パンジー!!」というパワーワードを繰り出す変質者
- なんの脈絡もなくカツラが飛んでいく学校の先生
- 滑舌が悪すぎて8割方何を言っているか分からないカッコワライの信者
- 滑舌が悪すぎて9割方何を言っているか分からない不良
なんというホンワカパッパ展開。いつ島田珠代さんがドロップキックされるんだろう……と不安で仕方なかったです。
絶妙な「やや古ノリ」との親和性
私が特に印象的だったのは、脳感電波部の皆さん。
原作を読んだときは、肉体改造部の圧がすごすぎて正直やや存在感が薄かったのですが、舞台ではベストオブかわいい賞をあげたいくらいよかった。四人のフレッシュなおばか加減が、シリアスなシーンとのコントラストを強めて大変癒されました。
突然はじまるミュージカルとクソクイズ大会の絶妙さ、本当たまらなかったです。何度でも観たいあのシーン……。
暗田トメ役の田上真里奈さんは、原作やアニメでも描かれた、ややレトロな少女マンガやギャグ漫画のノリを忠実に再現しているのに、全然うっとおしくない。ちゃんとかわいい。つぼみちゃんが不在の舞台において、実質ヒロインだったのではないでしょうか。
カーテンコールのとき、カメラに映りこむちょっとした立ち振る舞いまでトメさんそのもので、かつ主張が強すぎないという絶妙バランスがめちゃくちゃ素敵でした。舞台トメさんは、同級生からはイジられ役だけど、後輩から片思いされまくっているタイプのトメさんだと思います。
脳感部で「ありがとうございました」失敗からの「なかよしー!」の流れは、芸人が楽屋で生まれたノリをネタバトルイベントのエンディングで持ち込むやつでしかなく、とても好感度があがりました。本当に仲良しなんだろうな。
なだぎ武の底力
もう一人、役者としてとんでもねえと思った人がエクボ役のなだぎ武さん。
ザ・プラン9メンバーとしてbaseよしもとをにぎわせていた頃から「芸人以上に役者だなあ」と感じていたのですが、こうして「舞台」というシチュエーションで見ても、やっぱり間違いなく役者さんですね。
カーテンコールでは、原作モノが実写化するにあたってのデリケートさについて言及した上で、舞台が決まるまでモブサイコを知らなかった旨、だからこそ毎日毎日研究した旨を話していたなだぎさんは、演技にも先行作品への敬意がたっぷりつまっていました。
っていうか終始ほぼCV大塚明夫(アニメ版エクボ)だった。
この寄せ方はすごい。ダテにディラン・マッケイをやり込んでいる男ではない。
教祖としてのエクボはもちろんのこと、霊体化してから律や霊幻と出会うエクボの違和感のなさたるや。見た目は全身タイツという違和感バリバリスタイルなのに、演技でここまでなんの違和感もなくなるんですね。
すべてをさらっていく花沢輝気
テル役の河原田巧也さんの魅力は、前半のゆるやかたのし~おもしろ~いをかき消す、ドドドシリアスな演技。ひたすら圧倒されました。
特にすごいと思ったのが、テルくんがモブによってハゲ&ブリーフパンイチの通称落武者スタイルになってからも、シリアスな演技を続け観客を巻き込んでしまったところ。
それこそ吉本新喜劇かよという風貌なのに、鬼気迫る演技によって笑うどころじゃない空気を作ってしまったのが本当にすごい。
最後、モブという圧倒的な能力者を前に、すべてのプライドをなげうって「僕って凡人だ」と呟いて暗転するシーン、鳥肌が立つくらい怖かったです。
ハゲてるのに。ブリーフパンイチなのに。そんな格好で舞台の真ん中のちょっと高いところで仰向けになってひっくり返された亀のようにばたばた動いているのに。なんでこんなに怖いんだろう。
印象的なセリフと暗転の相性
テルくんのシーンだけでなく、全体的に暗転の使い方が絶妙でぞくぞくさせられました。
ちょっと話は変わるんですが、ザ・プラン9と同じく芸人であり舞台役者、という立ち位置にラーメンズがいますね。そしてラーメンズの人気ネタに「採集」というものがります。
ある界隈でカルト人気を博しているコントなのですが、オチとオチにかぶさる暗転の仕方が絶妙すぎて、恐怖しか残さず「お笑いとは一体」と考えさせられるレベルの作品です。
モブサイ舞台を見て真っ先に思い出したのがこれで、本当に暗転の使い方ひとつで舞台の印象は大きく変わるんだなあと。
そして、怖いからといってコメディでないかと言えばそんなことはないし、反対にコメディが毎回必ず面白さだけで構成されるわけでもなく、こういう適度な裏切りを自由自在に使い分けられる人こそが、カッコワライの教祖様のように人を惹き付ける立場になるんだろうな、とぼんやり考えていました。
終わり方……!?
さて本編のお話ですが、カッコワライ編も、VSテル編も終わって、まあまあいい時間になってきたところで登場する、モブが律に「あのときのことが思い出せないんだ」と話すシーン。
「え!?エクボ編もテル編もやって、ここからさらに律のくだりもやるの!?」と思っていたら、まさかの律による「あれは兄さんじゃない」という一言のみで、説明はせずに暗転、THE END。
初見「えーーーーーーー!!!???」って言いました。ここで終わるのーーーという気持ちが溢れすぎました。本当、現場にいなくて良かった。現場にいたら余韻クラッシャーになっていたところです。
まさに暗転芸。こういうことです。
そのあとのエンディングとカーテンコールも素晴らしかったもんだから、気持ちが忙しかったです。そういえばオープニングもめちゃくちゃテンションあがりました。
モブサイコのオープニングと言えば、アニメ1期のカオティックなサイバー映像オープニングがとても好きだったんですが、舞台でもあのわくわくが蘇りました。
夜の本気ダンス「Call out」にあわせキャラクターが入れ替わり立ち代わり登場する疾走感と、その中心でモブくんはただ立っているだけ、というコントラストにそうそうこれがモブサイコ100だ!と実感して、なぜかじんわり泣きそうな気持ちに。
モブサイコ100は伊藤節生の成長物語だ
さて総括として、まず「舞台 モブサイコ100 2」やってくれ頼む。そしてそのときは全員同メンバーでやってくれ頼む。
特に、伊藤節生さんは終始影山茂夫そのものでしかなく、それはCVだからとかそういう話の域を超えていたように思います。
カーテンコールでは、途中舞台に立てないかもしれないという恐怖と戦っていたことを漏らしていましたが、そのいい意味での役者としての未完成さが本当に、本物の影山茂夫でした。正しい影山茂夫の姿でした。
とりあえず続編、待ってます。