【映画評論】ライムスター宇多丸ウィークエンド・シャッフル「ザ・シネマハスラー」神回

ありとあらゆる文化と出会えるライムスター宇多丸ウィークエンド・シャッフルというラジオ番組内、めちゃくちゃ好きだったコーナーに「ザ・シネマハスラー」がありました。業界屈指の映画好きとして知られている宇多丸さんが、決められた映画を観て、それもたいていの場合2度以上映画館に足を運び、原作があればそれも読み、監督の関連作やインタビューもあればそちらまで手を伸ばし広くチェックした上で論理的に解説していくというコーナーなのですが、これが本当に面白い。

ということで特に印象的な作品タイトルとその評論の一部分をまとめてみました。

タランティーノ監督「ジャンゴ 繋がれざる者」

タランティーノ監督によるマカロニウェスタン。宇多丸さんは、たびたびタランティーノ監督を、あらゆる要素を複雑につなぎあわせ、それは宇多丸さんの畑であるDJ・HIPHOP文化とも通ずることから「サンプリング映画」の作り手であるとして取り上げていました。実際、サンプリング映画という言葉そのものはあまり好意的に遣われていないようですが、しかし同時に「映画ってこういうものだよな、という原初的な感覚に陥る」とも評価していました。

特に評価されていたのは銃を使ったシーンの撮影がうまいというのはもちろんのこと「話術」という武器を受け継ぐことで危機を脱するシーン。人物のおしゃべりによって展開されていくタランティーノ映画ならではの魅力が、映画としての展開そのものに影響を与えているという構図が評価につながったようです。

 

富永まい監督「食堂かたつむり」

どんな作品である正直極まりない感想が飛び出すのがシネマハスラーの魅力だと思っているのですが、高評価な映画の見所について徹底的に聞くのも楽しい一方、宇多丸さんのキレッキレ批判もまた違った面白さがあります。「この映画はもうひどい!」という評論がすさまじくノリにノっていたのが「食堂かたつむり」の回。

いきなり「森ガールウケしそうな映画」というナナメ系一般論に対し「森をナメるな」という裏が表で表が裏みたいなキレ方をぶちかましたのも印象的です。

最初に、シネマハスラーの候補作として今作を推した方ご本人からのメールが紹介されました。内容は端的に言うと「自分が推薦したせいでこの映画を見なければいけなくなってしまったのがつらい」というもの。なぜ推薦したのか?さらに、作中に登場する料理である「ジュテームスープ」を「下痢便」と言い放つトリッキーさで、リスナーからの期待値の高さもいきなりフルスロットル。

そして宇多丸さんの感想もおおむね同意といったご様子で、つまるところ酷評!圧倒的酷評!先ほど話題になっていた料理のグロさから、飲食業を主題に取り扱いつつビジネスマインドの一切感じられない「お店やさんごっこ」思想まで含めて「気持ち悪い」とまで言い切る、痛快な回となりました。

 

佐藤東弥監督「カイジ 人生逆転ゲーム」

ざわ…ざわ…でおなじみ、ギャンブル漫画の金字塔である「賭博黙示録カイジ」を原作にした映画。正直に申しまして、我々福本先生ファンの中でも、なんとも言えない気持ちを抱えた人は多いのではないでしょうか。

やはりタマフルリスナーのあいだでも賛否両論で「もっとどうにかならんかったんか?」勢と「いや、福本先生の作品を実写でやるならああなるしかなかったよ」勢とが混在していました。

そして宇多丸さんの評価はざっと言うなら「原作はあの絵だから面白いのであって、実写でやろうとするとああなるしかないよね」という感じ。特に印象的だったのはEカードにおけるカイジVSトネガワ先生のシリアスシーンの評論です。原作ではさまざまな心理描写を織り交ぜつつ、伸ばしに伸ばして書かれていたこのシーンについて「顔相撲」という名言が飛び出しました。そして「顔相撲」は、今後他の作品でも使われる汎用性◎パワーワードとなっていきます。確かにちょっと意識してみると、日常の中で顔相撲してるシーン、結構あるよね?

 

富田克也監督作品「サウダーヂ」

土方、ラッパー、外国人労働者などのキャラクターを中心に、地方都市の没落を描いた今作。なにがすごいかって、今作は宇多丸さんが「今年一番かもしれない」と大絶賛した作品です。

とにかくキャラクターのパワーが優れていて、なんとも言えない記憶に残るキャラクターばかり登場する今作ですが、宇多丸さんは「それぞれが分断されていて、クロスしない」ということが作品の肝だと語ります。批評サイトでは「よくわからない」、「何が言いたいかわからない」と評価されることも少なくない作品ですが、分断されあちらこちらへ話が飛んでいく中で、確かにつながっている水脈のようなものが作品の根幹なのでしょう。

宇多丸さんがとりわけ高く評価していたのは、田我流さんがフリースタイルでラップを披露するシーン。なんと40テイクも撮り直されているそうです。それでいて毎回ラップは徹底して即興、潔癖なまでに事前に決めておくことを避けることで「偶然生まれたもののあやうさ」にこだわったのでしょう。「どの映画よりも優れている。これ以上にラップ・ヒップホップを語るシーンはない」と大絶賛していました。

 

入江悠監督「SRサイタマノラッパー」

地方都市とヒップホップをメインテーマに取り扱う作品として、前述「サウダーヂ」との比較もされていた作品です。

今作が取り上げられる際、評価ポイントとしてよく話題になるのが「ラップシーンをワンシーン/ワンカットで撮影している」ということ。2作目や3作目、ドラマ版でもこの技法は使われています。

さて今作に対する映画評論は数あれど宇多丸さんの「日本語ラップが抱える気まずさを見据える視点がある」という評価は当事者ならではの温度を感じさせてくれ、で、でましたライムスター!おまんたせいたしましたー!!感があってテンションがあがってしまいました。

サウダーヂにしても今作にしても、映画としてのスマートな評価に「個人的なラップ界隈への思い入れ」がのっかることでボーナスポイント的に評価があがってしまうのは致し方ないことだと思います。ミッシェルガンエレファントを知っている人と知らない人がどちらも同じ環境で肩を並べて「THEE」を観たとしたら、当然まったく違う評価になってしかるべき。ラッパーを取り扱った映画について評論する宇多丸さんを半永久的に見ていたいので、そのような映画がますます増えることを願い続けます。

 

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