ヒット曲をバンバン生み出している、シンガーソングライターのaikoさん。いわゆるラブソング・ポップソングメーカーというイメージが強いと思うのですが、ブルー・ノート・スケールを多用をした楽曲は思わぬ進行、思わぬ転調の連続で、聞いていると「おおっ!?」となることが多々あります。
「なんだこの曲!?」と思う曲がたくさんあるのですが、発表している曲数がとにかく多いので、ライブの定番曲や、テレビやラジオで聴ける曲というのはどうしても限られてきてしまうもの。だからと言って埋もれてしまうのはあまりにももったいない、隠れた(と言ってもファンの中では王道な)カップリング曲をまとめてみます。
よく分からない怖さを備えた『テレビゲーム』
『かばん』のカップリング曲。
aikoさんのシングルはキャッチーなA面曲、相反するイメージの曲が1曲、そしてその2曲とは違う「達観した1曲」の3曲構成がされていると思っています。
達観した1曲って、ちょっと微妙な分かりづらい表現ではあるんですが、そうとしか言えないあの空気はなんやろか……ってことで、とりわけ達観レベルの高い一曲『テレビゲーム』。
ちょっと怖いくらいの静けさとともにはじまり、ゆるうい口笛をはさみつつ最後までぶれることなく静かに終わっていきます。
aikoさんの曲にはアッパーな楽曲と「好き好き大好き~!」系の歌詞の組み合わせも多いんですが、この曲で歌われている「君がどうすればいいか多少の試練なんだ」とか「もうそろそろ時間だしね」とか、裏切られても信じているから僕を盾にしていいよみたいなニュアンスとか、こんなに静かに歌われると本当、どうしたらいいかよく分からなくて、いい意味でめちゃくちゃ怖くて、すごく好きです。
不思議な展開と唐突なワード『二時頃』
『ナキ・ムシ』のカップリング曲。
サードシングルのカップリングとあって、本当に何年も何年もファンのあいだでは「隠れた名曲!」と語り継がれています。
この曲は構成がちょっと不思議。Aメロ→Bメロ→サビ→Aメロ→間奏→Cメロ(転調Bメロ?)→大サビ。
そしてサビ→Aメロ後の間奏がむちゃくちゃよくて、確かに従来どおりのA+B+サビをワンセットにした上でCメロサビ大サビ……みたいな展開にしたら、助長すぎてしまうのかもなあと思ったり。
何より、大サビ前の歌詞に唐突に放たれる「バニラのにおいがするTinyな女の子」という、第三者ワードのキレッキレ感にぐっときます。
異なるリズムを1曲に落とし込めた『リップ』
『シアワセ』カップリング曲。
こちらは展開こそオーソドックスなものの、Aメロ、Bメロ、サビとそれぞれにリズムがまったく違うという、これまた特殊な曲。
4つ打ちっぽくなるBメロから伸びやかなサビへの流れ、加速感もすごくいいです。
イントロやサビ前の鍵盤もむちゃくちゃ爽やかで、学生時代を重ねたというコンセプトとこれでもかというくらいマッチしているので、aikoさんの「イメージ」を音に起こすパワーはすごいな~と改めて思うばかり。
ちなみにこのシングルにはもう1曲『朝の鳥』という曲も収録されているんですが、これは前述で言う「達観した曲」にあたるのでぜひこちらも聴いてもらいたいです。
『朝の鳥』には「死ぬのはやめよう」というドドドストレートな歌詞が出てくるんですが、ここまで素材100%のような歌詞をaikoさんが書くのはめずらしいなと思ったのと、『リップ』とのふり幅が本当にすげぇなという点が印象的でした。
あいまいな歌詞と自由な音『more&more』
『桜の時』のカップリング曲。もともとはボサノヴァアレンジだったものの、アレンジの島田さんがまったく違うテイストで作り上げ、それが良かったので本採用されたという1曲。
aikoさんの曲は歌詞にないハミングやフェイクまで含めて完成された1曲に仕上がることが多いと思うんですが、最たる例が『more&more』だと思います。
実際、歌詞を見ても「Uh」「Ha」で表される部分が多く、さらに「◇☆△……」ともはや歌詞という概念をブン投げて表現されています。
「歌詞から曲を作ることもある」と語り、言葉を相当大切にしているaikoさんがあえて言葉をはめずに音を優先することで、理論で裁ききれない絶妙なニュアンスを実現しているのかもしれません。
ちなみにライブでは、原曲とも言えるボサノヴァバージョンを演奏することもあり、そちらはそちらでとってもいいです。
【関連記事】
aikoはなぜかわいいのか。aikoの笑顔で不安を覚える人間が考える歌以外の魅力
サイゾー掲載「恋愛依存の脳内ストーカー!ラブソングの女王<aiko>論」(安楽由紀子)の話
【北欧音楽】スカンジナビア系ストレンジポップ・インディポップ