ライムスター宇多丸さんによる「シネマハスラー」が大好きです。(参照:ライムスター宇多丸ウィークエンド・シャッフル「ザ・シネマハスラー」神回)このラジオで紹介されていたことで興味を持ってしまう映画は数え切れませんが、今回気になってしまったのがヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト原作・脚本を担当する北欧ノワール作品「ボーダー 二つの世界」。ネタバレ込み、ラストやモザイクがかかったショッキングなあのシーンにも触れつつ感想を書いていくので、まだ観ていない方はお気をつけください。前情報なしで観たほうが絶対面白いので……!

「ボーダー 二つの世界」のあらすじを簡単に言うと

この作品を簡単に言うと「露悪的」。そうして観客に与えられるものそのものが、進んでいくストーリーとともに揺さぶられる……という感じです。

以下、簡単なあらすじ引用。

違法なものを持つ人をかぎ分けることができる税関職員のティーナ(エヴァ・メランデル)は、ある日、勤務中に風変わりな旅行者のヴォーレと出会う。彼を見て本能的に何かを感じたティーナは、後日自宅に招いて離れを宿泊先として貸し出す。ティーナはヴォーレのことを徐々に好きになるが、彼はティーナの出生の秘密に関わっていた。

このようなあらすじもありますが、作中に何度か「え!?」みたいなシーンがあり、話がぐるぐると変わりながらボーダーが揺らいでいくので、このあらすじだけではなかなか作品の根幹に触れられません。

ということで、以下ガッツリネタバレ。

 

ネタバレ込みの詳細あらすじ

主人公のティーナ(エヴァ・メランデル)が、海と陸地のはざま(ボーダー)に立ち、草を這う虫にそっと手を伸ばすシーンからはじまる今作。ティーナは人の「羞恥」や「罪悪感」をかぎわける力によって税関職員としてバリバリ働いている一方で、いわゆる「普通」の「女性らしさ」からは遠く、例えばスーパーで買い物していてもいわゆる「普通の女性客」から好奇な目にさらされています。

なぜかと言えば(あえてあけすけな言い方をするのなら)、彼女が美しくないから。奥まった目、大きな鼻、常にうすくあいている口とのぞく前歯、どっしりした体型など。節々の描写から、言葉にされずともルッキズムの問題が浮き彫りになっていきます。

ティーナには恋人?的な?相手であるローランド(ヨルゲン・トーソン)がおり、一つ屋根の下でともに暮らしているのですが、もういかにもうまくいっていない。例えばこんな感じ。

 

  • ローランドが美味しそうに食べている謎パスタを、ティーナはめちゃくちゃまずそうにどうにか口に押し込んでいる
  • ローランドは浮気相手の存在をほのめかしているが、ティーナはそれに言及しない
  • ローランドからの夜の誘いの一切をティーナは「わたしにはできない」と断っている
  • 介護施設に入居している、ローランドの存在を知っているティーナの父はローランドをよく思っていない
  • 二人が暮らす家について「あの家はお前の家なんだから」とさとされる
  • ドッグレース優勝を願ってヒモ的生活をくりかえすローランドの飼い犬たちは、ティーナにまったくなついていない
  • ティーナはペットの犬よりも、近所の森に住むキツネやシカと心を通わせている

 

ティーナは息苦しそうな日常生活の中で、森を探索したり全裸で湖に飛び込んだりしながら、なんとか回復してまた人間らしい生活に戻っていきます。

そんな中、業務中にヴォーレ(エーロ・メロノフ)と出会います。ここは映画の妙だな~と思うのですが、映像的な情報のおかげでヴォーレの初登場時、ヴォーレがどんな人間かまるでわからなくとも、観客は見た瞬間に「ティーナに似てる!」と直感します。

 

重要人物であるヴォーレというキャラクター

そんなヴォーレは、日常において完全なる「異端者」として描かれます。ティーナよりも明確に。例えばこんな感じ。

 

  • 常時、ず~っとニチャ……とした半笑いを浮かべている
  • なんとなく身なりが汚い
  • 持ち物検査で、バッグ内に大量の虫を保管していることが発覚する
  • バイキングで並べられているサーモンをすべて自分の皿にべちゃちゃちゃちゃ、と盛り、マダムに「ほかの人のことを考えて!」と注意されるが意に介さない
  • そのサーモンを手づかみでむちゃむちゃ食べる
  • さらにそのへんの木に這っている幼虫を食べる
  • 虫食を注意され「誰が(いけないことだと)決めたの?」と聞く

 

そして重要なのが、ティーナと二回目に再会するシーン。やっぱりヴォーレに何か匂いを感じるティーナは、男性職員の力を借りて精密検査を行います。すると戻ってきた職員が「気まずかった」と。なぜなら、ヴォーレは女性だったから。

ティーナはすぐに謝罪に向かいますが、ヴォーレは気にしていないようす。その中でティーナとヴォーレは「同じ場所に傷がある」などの共通点を見出します。そこでティーナは「あなたは誰?」と、シリアスな質問を投げかけてしまいます。

 

そうしてティーナはどういうわけかヴォーレに興味を惹かれていき、ヴォーレが行き場のない旅人と知ると自らの家へ連れて帰って、空いている離れを貸すことに。

ローランドとヴォーレのやりとりもめちゃくちゃ好きなんだよな~。「本物」を前にして、それまでイキり倒していたローランドが小物感を出すところとか、凶暴そうなワンチャンがくぅ~ん……ってなっちゃうとことか。

 

もっともショッキングなモザイクシーン

さて、R18指定がされている今作、公開版とブルーレイ版ではとあるシーンのモザイクが外されています。そのシーンとは、ヴォーレの出生にまつわる話、そしてティーナとヴォーレの関係性にもつながる重要なシーンです。ですが、すいません、私にとってはめちゃくちゃ面白い(funny)シーンでした。

 

ティーナとヴォーレのコミュニケーションは、カフェで向き合って言葉を交し合う……のではなく、森をはだしで歩いたり、顔を近づけて唸りあったりとわかりやすく人外的。そしてコミュニケーションの中で高まりあったティーナの身体に異変が起きます。

これこそがモザイクシーンなのですが、端的に表現してしまうと高まったティーナが下着をおろすと、そこに見たことのない性器が生えてきている、というもの。そのまま、獣のようにヴォーレに襲いかかるティーナ。なかなかショッキングなシーンであることには間違いがないのですが、本当にお恥ずかしいことに、学のない私にはこの一連のシーンが面白くて仕方なくて、「なんだそれ~!!?」と普通に笑ってしまいました。映画館で笑っている人間、私しかいなかった。

 

さあそんなこんなの一連のあと、自分が何者かわからずとまどうティーナにヴォーレは「君と僕はトロールだ」と伝えます。トロールはもともと尻尾のある、人間に似た種族で、二人が同じ場所に傷をもっているのは幼いころに尻尾を切られたからだ、と。

トロールはフィンランドの一部に住んでいる種族ですが、移動しながら生活しているためこちらから彼らにコンタクトをとる方法はありません。ほかの仲間達は人間につかまり、実験対象とされ数々の拷問ののち処分されためにほとんど残っていない、とのこと。ただしヴォーレは「まだ生き残っている仲間に自分の存在を知らせることはできるはず」という旨の発言をします。

自分の出生を知ったティーナは取り乱し、とりわけ施設にいる父に対して強い混乱をぶつけます。

 

あるとき、ティーナがヴォーレの寝泊りしている離れを訪ねると、ベッタベタにテープを貼られている冷蔵庫を発見。あきらかに怪しい冷蔵庫を開けると、中には大きな箱がおさめられていて、さらにその箱の中には赤ちゃんがいました。ゴムのような質感で、どうにも「いわゆる普通の赤ちゃん」のようには見えない赤ちゃんが。

ヴォーレにたずねると、ヴォーレは「自分が生んだ無精児だ」と明かします。おそらく両性具有的な位置づけのトロールは、定期的に無精児を出産するそうで、産み落とされた赤ちゃんは冷蔵庫の中で快適に眠り、小さく砕いた虫を食べてまた眠るだけ。長くは生きられない運命なのだと聞かされ、ティーナはますます困惑します。

 

もう一つの話の核である最悪な犯罪集団

このように、生きにくさを抱えていたヴォーレとティーナの正体は作品の大事な核なのですが、もうひとつ重要なのがティーナが仕事を通じて出会う犯罪集団にまつわること。

業務中あやしい匂いをかぎ分けたティーナは、男性客の携帯にささっていたメモリーカードが違法なものである、と見抜きます。その後警察から連絡があり、メモリーカードからは児童ポルノのデータが押収されたこと、犯罪グループの幹部は逮捕者のほかにいること、初対面の男からのデータ押収を成功させたティーナの力を借りて捜査したいことなどを告げられます。

そしてティーナは匂いだけを頼りにとある街のアパートメントの一室にたどりつきます。そこに住んでいたのは一見普通の夫婦。部屋からは赤ちゃんの泣き声が聞こえますが、出生届は出されていません。警察とともに現場に踏み込んだティーナは、二人が「とある男」から預かった赤ちゃんに対しおぞましい行為を行い、撮影(恐らく販売も)していた、という事実にたどり着きます。

夫婦は逮捕され、夫は警察の車で拘置所へ向かうことに。途中、とつぜん森からでてきたシカが車の行く手を阻みます。足止めをくらった一瞬のうち、夫は何者かに車からひきずりおろされ、その場であっけなく撲殺されてしまいました。

 

衝撃の真相が明らかに

夫婦の捜査に協力していたティーナは、現場に残っていた匂いをたどり犯人をつきつめます。犯人は、森の中にいたヴォーレでした。「なぜ殺したの?」と問えば「彼を口封じするため」。ティーナの追及にあっさりと応えたヴォーレは、自らが犯罪集団に赤ちゃんを売り飛ばしていた真犯人であることを明かします。

無精児を産み落としたヴォーレは、さまざまな家庭に忍び込んでは自分の子どもと赤ちゃんをチェンジング(とりかえ)して、人間の赤ちゃんを犯罪者へ売り飛ばしていたのです。ティーナに動機をたずねられると「自分たちを苦しめた人間たちへの罰だ」と供述。ともすれば子どもを奪われた両親の「仕方ないので、代わりの赤ちゃんを責任を持って育てる」という判断を待っていたのかもしれません。

 

そのあと、舞台は変わって逃亡をはかったヴォーレはティーナとフェリーの甲板で向き合いながら「2人で自分達の種族を増やそう」と提案します。しかしティーナは却下。ヴォーレが「人間になりたいのか?」と聞くと「誰かを傷つけることに意味を見出せない。これを人間的な感覚だと思う?」と尋ねます。

直後、ティーナの合図でともにフェリーに乗り込んでいた警察がヴォーレを確保。しかしヴォーレは身をねじって警察の手から逃れるとそのまま海の中へ飛び込み、沈んでしまいます。

 

そしてあのラストシーン

この映画の好きなところのひとつとして外せないのが、ラストシーン。ローランドを追い出し、ヴォーレもいなくなってしまい、荒れ果てた家にティーナが帰ってきます。すると、家の前に宅配物的ななにかの箱が。

箱を開けると、中には「フィンランドへようこそ。1000の湖がある国」というはがきと一緒に、尻尾のある赤ちゃんがおさめられていました。困惑しつつも、泣いている赤ちゃんを抱きかかえるティーナ。赤ちゃんはなにをしても泣き止まず、困ったティーナはそのまま外へ出ていきます。

ふと見ると、岩肌を這っている虫が一匹。ティーナはそっとつかまえて、赤ちゃんの口へ運びます。すると赤ちゃんは素直に虫をたべ、お腹が満たされたのか満足そうな顔をティーナに向けます。ティーナは安心したように、そしていとおしむように赤ちゃんへ視線を向けて、END。

このラストシーンは物語の冒頭、海に浮かぶタンカーを見つめ、虫をそっとつかまえて草の上に戻していたシーンとの明らかな対比です。

 

ざっとご紹介しただけでもわかると思うのですが、人によっては「ウッ!」となるような、嫌悪感を抱きかねないシーンが散りばめられている今作。それこそが「なぜウッ!となってしまうのか?」という問いおよび今作の根幹にほかならず、いくら口で「自分は差別なんかしませんよ」と言えたとしても、視覚的にぶつけられたら思わずたじろいでしまうし、その「たじろぎ」や「嫌悪感」こそが私たちがボーダーのこちら側で勝手につみあげた「常識」とか「倫理」とか「美的感覚」の寄せ集めです。

人間の理屈も価値観も、トロールには通じません。それを「種族が違うからしゃあない」と切り捨てたり、ましてや「あの人、顔や見た目が私たちと違うね」とか「生きづらそうで大変だね」とか眺めて呟くのは、自分が人間であることに安心しているマジョリティ側のエゴ。自分が日々、いかに傲慢な生活を送っているか突きつけられたようで、見終わってからべっこり凹みました。でも本当におすすめ映画です。不穏な空気を浴びたいときにはぜひ。

 

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