aikoの「歌詞の呪い」について意味を自分なりに考えてみる

以前、Twitterでバズっていてなるほど、と思ったツイートがありました。それは「aikoが歌詞の中に差し込んでくる呪いみたいな言葉が怖い」というツイート。

aikoファン、いわゆるジャンキーたちの中には「なんじゃそりゃ!」と思った方もいるかもしれません。しかし一ジャンキーとして、納得できるので考えてみました。

そもそも「呪い」とはなんなのか

まず大前提として誤解のないようにしたいのですが「呪い」を決してネガティブなものだけだととらえないでほしいということです。「この人に健やかであってほしい」という素直な思い、例えば家族愛なんかも、ともすれば呪いの一種だと思います。

以前の記事(歌詞もコードも転調も、aikoのカップリング曲は隠れた名曲揃いだ)で書いたとおり、aikoさんの曲には「ボーイフレンド」とか「花火」みたいなヒット曲の視点とはやや離れた達観した視点から描かれている曲がいくつもあります。だからこそ、そこにフックとしてぶちこまれる一文に「うわあ!」と驚き、たまらなく好きになってしまうのです。以下、具体的に曲を取り上げていきます。

 

aikoの呪い曲シリーズ1「朝の鳥」

不穏なシリーズのトップバッターは絶対にこの曲に渡したかった。シングル「シアワセ」のカップリング曲「朝の鳥」です。はじめて聴いたとき「天才か?」と思った、好きな部分を抜粋。

 

まだあだ名しか知らない それ位の方が想像も湧くのです

 

勝手に吹く肌寒い風があたしばかり煽るからあなたの姿が愛しいのです

 

aikoさんの歌詞は「あたし」「あなた」の2人だけの精神世界であることが多いのですが、この曲の特徴は「あなた」さえほとんど不在であるということ。いやいるんだけど、上の歌詞を見れば分かるとおり生活圏内に「あなた」は存在するはずだけど、どう見ても「あなた」の視界に「あたし」は1ミリも入り込んでねえだろうがよ、という感じ。ゆえに、「あたし」から見た「あなた」も今ひとつ形になりきらずどこか虚構めいていて、すごく怖いんです。「あたし」の自意識や思い込みや、それこそ呪いのようなものが浮き上がって最高です。

 

aikoの呪い曲シリーズ2「蝶の羽飾り」

シングル「スター」のカップリング曲です。やっぱりカップリング曲は名曲が多い、というのは事実やな~と思いながら、一番好きな部分はここ。

 

細かく刻まれた愛し方や渡せずホコリをかぶった手紙もあたしが作ったカケラ全部大切にすればいい

 

すごくすごくド直球に呪いめいてますね。日常生活の中で知らずに習慣になっていること、たとえば食事のときには映画を観るとか残業がない日はラーメン食べて帰るとか朝のルーティーンとかそういうレベルのことって、それ自身がいいとか悪いとかではないからこそ「呪い」だと思うんですが、他人との生活が分岐するタイミングでこんな言葉を投げかけられたら、なにもかも懐疑的になりそう。

 

aikoの呪い曲シリーズ3「ライン」

アルバム「暁のラブレター」より。あなたの言ってることよくわかんねえわ、私が変わったせいかもしれんけどな、的な曲の一番好きなとこ。

 

「愛してる」と言えば言う程あなたの不安煽ぐならもう言わないわ 二度と 一生 絶対言わないわ

 

にじみ出るヤケクソ感。仮にこの歌詞の「あたし」と「あなた」が仲直りしてらびゅらびゅしゅきぴ~!ってなったとしても、きっと「あたし」はマジで二度と「愛してる」だけは言わないんだろうな、たとえ「あなた」がその理由を忘れて、軽率に「俺のこと愛してる~?^^」って聞いてきたとしても二度と一生絶対、という気迫がじわじわ伝わってきて怖い。

 

aikoの呪い曲シリーズ4「ボブ」

ファーストアルバム「小さな丸い好日」より。aikoさんの曲の中で唯一、と思われるような表現も目立つ特徴的な曲なんですが特に印象的なのがここ。

 

でもそのせいでそうとう長い間誰も好きになれません。

あなたのせいです。

 

二人のあいだになにかあったとして、百歩譲って本当にそれが「あなた」のせいだったとしても、このドドド直球な歌詞はすごい。夜毎「あなた」への念を飛ばしていそうな感じがすごくいいですね。切ない意味合いの「あなたのせい」も、気圧の低い夜は平気でどすぐろい呪いにかたちを変えそう。

 

aikoの呪い曲シリーズ5「夏が帰る」

アルバム「BABY」より。aikoさんの曲の中でも相当上位に好きな曲なんですが、歌詞のここは何度聴いても「オッ……」となります。

 

後悔する位なら苦しくても永遠に君を好きでいたいの

 

「ライン」の「二度と一生絶対」もそうなんだけど、aikoさんの描く「絶対」とか「永遠」って、本当にそれが叶えられると強く思い込んでいそうな気配があって、とても怖くてとても好きです。実際にその永遠が叶うかどうかではなく、むしろそうした「現実でどうなるか」ということにはまったく興味がなく、ただこの瞬間は確実に「永遠だ、私は永遠にこの気持ちでいる、絶対に死ぬまでこの気持ちでいられるに違いない」と強く強く信じているような気配が、いい意味で呪い的で最高に大好きです。

 

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