ふみふみこ「愛と呪い」最終巻3巻を読んで精神がガバガバになった

以前「ふみふみこ『愛と呪い』の自己流あらすじからこの名作を布教したいという記事を書きました。このたび完結したこの作品について、改めて書いていきたいと思います。

ふみふみこ「愛と呪い」がついに完結

1巻を読んだとき、これはまたえらい漫画だどうしよう、と震えた、ふみふみこ先生の「愛と呪い」。ついに最終巻を迎えました。

これで性交をする「女」にも、子どもを産む「母」にもならなくてよいのだ。自分で自分を縛り付けるような結婚生活が終わったとき、愛子の胸をよぎったのはそんな安堵にも似た気持ちだった。東日本大震災、離婚、成人後も続いた父の性暴力と母の懺悔――。今はもう世界が滅びればいいとは思わない。ただ、この怒りが消えることを祈りながら生き延びる。すべてを憎むしかなかったある「キレる17歳」世代のサバイバル物語(ストーリー)、最終巻。

公式サイトに掲載されているのはこんな内容。あらすじと言えばあらすじだし、作品の魅力はこの内容に限らないぞ、と言えばそうでもあるという感じ。ということで、次からガツガツに内容に触れてネタバレしていきます。

 

3巻の内容ネタバレ

作中にて、幼少期からの人生がずっと暴かれてきた愛子ですが、2巻では自殺未遂をするなど非常に追い詰められた状態にありました。

そして3巻の愛子は、20歳を過ぎ引きこもり状態に。薬を飲んではほとんど寝たきりのような状態にありましたが、母が用意したノートパソコンでネットサーフィンをはじめたことをきっかけに「自分でなにかする」ということとの距離が近くなったのか、どうにか引きこもりを脱却します。そして無事に就職。就職先の上司と交際、結婚と「ふつうのくらし」をするようになっていきます。

しかし、20歳を越えても父からの虐待は続いていました。

さらに、ふとしたきっかけで母が「引きこもりを脱却できてよかった、ふつうのくらしができるようになってよかった」といういわゆる”いい話”の流れで「お父さんのことがあったから心配してた、それがきっかけでできないようになる人もいるって聞いたから」と漏らします。母はすべて気がついていて、知らないふりをしていたのです。

母から言わせてみれば「離婚したかったけど、離婚して子どもたちを育てていくすべがなかった」という一つの愛情だった、ということなのですが、愛子からすればそんな言葉で一連のできごとを耳障りよく変換されてしまうこと以上の冒涜はありません。

多くの作品に書かれている内容ではありますが、やはり母と娘の確執は触れるたび新鮮に苦しいですね。

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こうしたできごとの中で愛子は常に「ふつうのくらしをしなければいけない」という窮屈さにとらわれ、逃れるために薬とアルコールに溺れていきます。旦那から「なるべくお酒を飲まないでほしい」と言われる中、ある日ついに酔っ払った状態で傷害事件を起こしてしまいます。

そして取調べの最中に東日本大震災が発生。旦那は実家に帰ると言い、しばらくの別居生活のあとついに愛子は離婚します。

作中、こうした時間の流れは愛子の日記の内容とともに語られていくのですが、この日記の書かれ方がものすごくいい。

「もう、性交をする女にも、それにより子どもを産む母にもならなくて良い 」

「そう思った瞬間、どっと肩の荷がおりた」

これ、自分の心のノートに書き付けたい。すごい言葉だ。

 

どうして「愛と呪い」がこんなに響くのか

もともと『すべての読者に捧ぐ救済の物語』と謳われていた今作。「なにをもって救済なのか?」と思う読者もきっと多いでしょう。私は完全に「救済された」側の読者なので、なぜそう感じるのか考えていました。

変な話ですが、すごく救われるというのは「自分よりももっと不幸な人がいる」という事実に安心しているという意地の悪いものである気がしてすごく嫌な気持ち。でも作中のキャラクターもいい意味で格好悪い姿を見せてくれるので、自分の意地の悪さも含めて許してもらえているような気がするというか。

自分が格好つけて、少しでも理性的でいようとして蓋をして見ないふりをしてきたものに対して、作品のキャラクターが代わりに声をあげて怒り泣いてくれるという、端的に言えばカタルシス以外の何者でもないのですが、この作品はそうした力がとにかく強く、それゆえに救われる、という構図が完成しています。

友人が、とある話の中で「今精一杯立ち直ろうとしている人間に対して、そんな過去は早く忘れろ、過去に捕われていたら先に進めないと言う人がいた。どうしてそんなことが言えるんだろう、人の心がないのか」と憤っている姿を見て、その勇ましさに友人と別れたあとに一人でギャン泣きした経験があるのですが、我々にもっとも必要な時間は「忘れたい過去のために気が済むまでめちゃくちゃ怒って泣く時間」です。

高みの見物をしている人たちに「早く忘れなよ」と言われたところで「テメエの顔もろとも絶対ぇ忘れねえからなふざけんじゃねえ」と思ってしまうだけで、もう絶対に誰にも何も話さねえわ嘘の情報でも信じて生きとけばーかと拗ねた気持ちになってしまうので、そういうときにこういう作品があってよかった、と本当に思う。こういう作品をもっと読みたい。そして、そのたびに思ったことを書き付けておきたい。

 

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